2025/05/02

【コラム】若き杜氏が率いる酒蔵の、“前進と研鑽”の精神


 

杜氏の覚悟が生んだ、新しい大吟醸


福島県南部に位置する自然豊かな天栄村。松崎酒造は、この村で明治25年からずっと酒造りの技を守り続けてきました。

転機が訪れたのは2011年の震災直後。それまで岩手から松崎酒造に来ていた南部杜氏が病に伏して、酒造りを率いる人間が誰もいなくなってしまったのです。このとき後継者に名前が挙がったのは、震災前に酒造りの勉強を始めたばかりの松崎祐行さん。当時はまだ26歳という若さで、わずかに濾過の工程に関わった経験があるだけでした。

そんな松崎さんが100年以上の歴史を持つ酒蔵で杜氏を務めるというのは、誰が見ても無謀な挑戦。それでも松崎さんは「自分がこの酒蔵を守らなくては」という気持ちに突き動かされて、6代目の杜氏となることを決意します。

覚悟を決めてからの松崎さんの行動は早く、福島県の清酒アカデミー職業能力開発校で酒造りの技を基礎から徹底的に学ぶことにしました。そこで様々な造り手と交流し視野を広げたことで、松崎酒造が受け継いできた酒造りにも見直しが必要だと感じたのだとか。

年々レベルが高くなっていく福島の酒造りの流れに、自分の酒蔵が取り残されるようなことがあってはいけない。松崎さんは情熱と力の限りを注ぎ、杜氏として自身が初めて仕込む酒と向き合っていきます。

このとき生まれた「廣戸川 大吟醸」が、何と翌年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞。それまで何の実績もなかった若き杜氏が、見事改革を成し遂げたのです。

 

飲む人の期待に応えるために、研鑽の日々は続く




松崎さんは酒造りの工程に積極的に機械も投入し、アルコール度やアミノ酸などの測定を行う分析室、火入れや瓶詰の作業を自動化する設備を導入しました。その一方で、自分の代で酒造りを大きく変えようと意気込んでいた頃から心境の変化もあったと言います。

「変えるべきところは変えつつ、昔の酒造りの良いところはしっかりと受け継いでいきたい」

機械によって部分的に効率化をしても、やはり最後に酒の味を決めるのは造り手の技と感覚。松崎さんは杜氏として現状に満足することなく、今も研鑽の日々を送っています。

松崎さんが目指すのは、話題になるような新奇な酒ではなく、「廣戸川」の新酒を待ち望む人たちの期待に確実に応える酒。地元の人たちに「これぞ廣戸川」と言ってもらえる酒を造り続けることです。

県内の他の酒蔵も日々努力を重ねている中、毎年同じ酒造りを続けていては相対的にレベルは落ちてしまう。1年ごとに改良を加えて前進しつつも、ベースには「廣戸川」だけのブレない旨味があります。

新酒が披露されるごとに「今年はどんな仕上がりになっているかな」という期待が高まる酒蔵。杜氏が経験を積み、その技が磨かれていくほどに酒の味わいが深まっていきます。

松崎酒造の「廣戸川」は、森株式会社の公式オンラインショップで購入できます。酒造りの進化を毎年楽しむことができる地酒、ぜひチェックしてみてください!

福島の地酒,松崎酒造【福島県天栄村】